速弾きに必要な技術(ピックスランティング)
今回は、ピックスランティングについて解説していきます。
皆さんはギターにおいてのスランティングという概念をご存知でしょうか。
日本ではあまり浸透していないので、聞いたことがない方も多いかもしれませんが、難しいフレーズでの弦移動を攻略するのに必須なテクニックの一つです。
ピックスランティングとは、弦に対して手に角度をつけてピッキングすることで弦移動の難易度を下げる技術です。
イメージし辛いので、画像で補足していきます。
上図は、ギターを横から見た図で、ネックに対して①〜⑥が各弦を、赤い線はピックの先端の軌道を、黒い線はピックを持っている手の軌道をそれぞれ表しています。
例えば2弦をアップピッキングし、3弦をダウンピッキングしたい場合、ギターに対して手を水平に構え、弦に対してピックが垂直なフォームでピッキングしてしまうと、3弦にアップピッキングで当たってしまい、エコノミーピッキングになってしまいます。(図1参照)
なので、当然3弦を1度アップで空振りする必要があるのですが、この時に手に角度をつけること、スランティングすることで弦移動がしやすくなります。
ピックを持っている親指側をギターから少し離し、下向きに傾けます。(ギターに対して10度〜20度くらい)
この状態にすることで、手をギターに対して水平に上下させても、2弦を弾いた後に3弦に当たることはありません。
(図2参照、手の軌道自体はギターに対して水平なままなのがポイント)
ここまでの内容ですが、いまいちピンと来ていない方が多いと思います。
一般的な速度のアルペジオや単音フレーズの弦移動において、この動作は不必要だからです。
速度が速くなければ、ギターに対して手を水平に構え、弦に対してピックが垂直なフォームでピッキングしても、手をギターから少し離す動作を弦移動の度に繰り返せば、演奏が可能だからです。(弦の上をボールがバウンドするような手の軌道になります)
ただし、速いフレーズにおいてこの動作をしている時間はありません。
手の上下動が加わることで手の軌道に大きなロスが生じます。(軌道の矢印が直線ではなくなる)
つまりピックスランティングは、弦移動を最短距離で行う時に有効な技術です。
ピックを持っている親指側をギターから離し、逆ハの字に傾けることをダウンスランティング(図2)、親指側をギターに近づけ、ハの字に傾けることをアップスランティング(図3)と呼ばれています。(ダウンピッキングかアップピッキングかは呼び方に関係ないので混同しないよう注意しましょう)
ただし、便利ではあることは間違いないですが万能ではありません。
2弦をダウンアップ→3弦をダウンアップ→2弦をダウンアップを繰り返すようなフレーズであれば、ダウンスランティングすることで弦移動が可能です。
しかし、図2のように2弦をアップ→3弦をダウンした後にまた2弦をアップした場合どうなるでしょうか。
セオリー通りに行くとスランティングを切り替える必要があります。
速いフレーズの繊細な動作の中でこの切り替えを行うのは非常に難しいです。
なので偉大なギタリスト達はどちらかのスランティングに特化し、もう一方のスランティングが出てこないよう、レガートやエコノミーピッキングを混ぜ、フレージングしていることが多いです。
イングウェイ・マルムスティーンやマーティ・フリードマンなどは非常にわかりやすい例でダウンスランティングを使いこなしますが、稀にアンディ・ウッドのようにスランティングを切り替える達人もいます。
ここまでスランティングの解説をしてきましたが、試す価値はあるものの、どちらをどれくらい練習すべきかは目指す方向性によって変わります。
一般的には大きく分けて以下の3つでしょうか。
①細かいことは気にしない
②ダウンかアップ、得意な方に特化し、フレーズを構築する
③ダウンとアップ両方を使いこなす
ここまで長々と語っておいて何ですが、私個人的には9割の方は①でも問題ないと思っています。
図1のようにエコノミーで当たってしまっても、その時に左手が押弦を始めていて、よく聞けば3弦アップのアタック音が入っているが実音はミュートされている、というようなパターンが多いです。
一見スラスラ弾いているように見えても、このような演奏をしている方はたくさんいますし、それが悪いことだとは1ミリも思いません。(肘から先を固定してガーッと弾く方法など)
有名で偉大なギタリスト達でさえ、②のパターンが大多数なのですから。
知ってるか知らないかで大きく差が出る知識ではありますので、もし弾けないフレーズや速いフレーズが苦手な方は是非取り入れてみてください。
最後に私のダウンとアップのスランディングが混在する場合の理想とするピッキングの図を載せておきます。
ヒントは前腕の回転、円の軌道の頂点です。(図4、図5参照)